RESEARCH

言語をもつのはヒトだけなのか?

Darwinが『人間の由来』(1871)を著して以来150年以上にわたって、動物の発する鳴き声は単なる感情のあらわれであり、単語や文法はみられないと考えられてきました。単語や文法をもちいた高度な言語能力は、ヒトだけに進化した性質であると考えられてきたのです。しかし、ヒトだけが言語をもつという解釈は本当に正しいのでしょうか?

私はこの疑問を胸に、鳥たちが鳴き声を用いてどのような情報を伝えているのか研究しています。


シジュウカラの音声コミュニケーション

私は詳細な行動観察や音声解析、野外実験を通して、シジュウカラ科鳥類が、仲間に危険を知らせたり、餌の場所を知らせたりするための様々な鳴き声(単語)をもち、さらに、これらの鳴き声を一定の文法規則に従ってつなぎ合わせて、より複雑なメッセージ(文)をつくることを明らかにしてきました。

たとえば、シジュウカラは異なる警戒の鳴き声を使い分け、迫り来る捕食者の種類(カラスやヘビ)を巣のヒナやつがい相手に知らせます(Suzuki 2011 Curr. Biol.; Suzuki 2018 PNAS)。

また、シジュウカラは「警戒」と「集合」を意味する異なる音声を組み合わせ、群れの仲間に「警戒しながら集まれ(そして捕食者を追い払おう)」という複雑な情報を伝えます。この音声の組み合わせには文法規則が存在し、それに反すると情報が正しく伝わらないことも、野外実験から明らかになりました(Suzuki et al. 2016 Nature Commun.; Suzuki et al. 2017 Curr. Biol.; Suzuki & Matsumoto 2022 Nature Commun.)。

私たちが会話のなかで使っている様々な認知能力は、じつは動物においても広く進化してきたのかもしれません。